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近頃思うこと「建築の寿命とは?」

篠原 晴伸
篠原 晴伸
(株)タカネ設計

 動物の寿命は脳の成長のピーク年齢の5倍だそうです。そうなると15歳~20歳程度で亡くなる犬や猫は3才~4歳が脳のピークと言う事でしょうか。人間の脳の成長は大体25歳で止まる様ですから本来125歳程度が人間の寿命と言う事になるそうです。日本では100歳を超える人口はこのところ急激に多くなって7万人程ですが、それでも農薬とか添加物入りの食べ物や過剰なストレス、病気や事故災害等、色々な条件で中々長生きは難しいようです。
 人間の寿命を100年と仮定してみて、色々な物の寿命を考えた時、物でも生き物でもまた時間的な経過でも、それぞれのスパンは長いのか短いのかという疑問が出てきます。例えば人生100年と考えると今からたった150年前が江戸時代だなんていうのも私の中では不思議ですし、太平洋戦争終結後約75年である今、戦争終結以前のたった75年程度で日本は江戸時代から近代化へ激的な変化を成し遂げた事になります。
 話は建築になりますが、建築もまた寿命は長いのか短いのかと考えてしまいます。それは建物の減価償却がどうか、と言う意味ではありません。
 私が若い時は、設計した建物は相当長い間存在するだろうと思っていましたが、卒業後1年余りで補助として関わった大的場の公共施設も、今は解体されて無くなってしまいました。竣工後約30年程だったと思います。
 其々の過程で、その時代には利用者が有ると想定され要望された施設も、時の流れの中で使われなくなる建物もあります。古い公営住宅やマンションまた店舗も含まれるでしょう。そして人口減少も建築への変化に対する大きな要素です。例えば統廃合で使われなくなった校舎も解体を待つだけと言う場合もあるでしょう。
 近年は耐震に対する対応の重要性から、昭和56年以前の建物で耐震補強が困難だったり工事費がかさむ場合、解体しか方法が無い場合もあります。種々の条件で建物が活かされなくなる状況を見るのは仕方ないにしても、自分が設計に関わった建物の場合は特にどこか切ないものです。
 昨年沖縄の首里城が焼けました。今回焼けた首里城は1992年に出来た正殿で、築後まだ27年です。当然建替えや修理が行われるでしょうし、その存在価値が繋ぎ残っていくと考えると寿命は長いとも言えますが、築後27年で無くなるのではやはりとても短かいですね。

img-07-002.jpg  一方で完成後に、もう一度見に行きたいと思っている命の長い建築が有ります。
 1882年から建設され、2026年完成予定として未だ建設中のサグラダファミリアです。
 建築家ガウディが亡くなっても、その思いが他者によって引き継がれ、建設され続け現在も息吹を吹き込まれている建物です。建設の経過が長いだけに表と裏のファサードは新しさと古さが違い過ぎる感はありますが、何れにしろ今まだ生まれようとし、ガウディ没後100年に当たる2026年の竣工後も間違いなく維持され続けて相当に命の長い建物になるでしょう。

img-07-003.jpg  私は若いころ村野藤吾さんの作品に感動し良く雑誌を見、デティールを模した事も有りました。特に村野さんが60歳半ばを過ぎての作品は瑞々しく潤いを感じました。村野さん等の建築家だけでなく、著名な芸術家等も含め、作品を造る人は恐らく常に何かを求める強い探求心があるからか、年齢に関係なくというより、年齢を重ねる程に逆に若々しく、自由でフレッシュな感性に近づいている様に思えます。若かった私はその方達を手本にしようと考えたものですし、村野さんと同じ93歳までと言うか生涯現役で建物に取り組みたいと思ったものです。
 その村野さんの作品も、最近ネットで検索した作品リストでは約半分が「現存せず」となっていました。古い建築で構造強度が無い等の仕方ない物もあるでしょうが、その中にはまだまだ新しい建物もあります。著名な建築家の建物でさえ、その寿命がとても短い場合がある。そう考えると、建物の寿命(存在価値)はいったいどの位が妥当なんだろうと思わざるを得ません。
 都会の高層ビルが30年や50年で建替えられる事は考え難いですが、香川県内を見渡すと30年から50年で建替えられている建物は多いように感じます。そこで建物の寿命に影響する要素を考えて見ました。
  ① 建物の機能や運用が時代に伴わないもの
  ② 建築の構造強度が基準に適さなくなったもの
  ③ 建築物の風化
  ④ 作風やデザインの消失
  ⑤ 維持管理が出来ていないもの
  ⑥ 建築の運用形態が時代にそぐわないもの
  ⑦ 災害により消滅するもの
  ⑧(海外の場合)戦争やテロ等の破壊行為
                    等々

img-07-004.jpg  1964年の前回の東京オリンピックの頃はテレビが一般家庭に普及しモノクロ画面からカラー(天然色)となって行きました。今は車が1~2台ある家庭も増え子供もスマホを持っている時代になりました。前回から今年のオリンピックまでの56年間、人や物の社会的変化に伴い、都市や建物は急速に様相を変えてきています。その間都会だけでなく地方都市の建物も一度は建替えられた物が多いのではないでしょうか。近い将来、増えるであろう人生100年時代や益々の人口減少、5Gやその後の6G関連による社会の様々な変化が建築や都市形態そのものへ影響する事が予測される中で、人との関わりを基本にしつつも建物にはより従来と違う柔軟な変化や対応を求められると思います。そうなるとそれまでに建った建物の寿命にも当然影響を与える事となるでしょう。その現象を経済も含めた社会の発展として前向きに捉えつつも、設計に携わる者としては、やはり建築の寿命はどの位が妥当なのだろうかと考えてしまいます。


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この記事について

このページは、sekkei-kagawaが2020年6月24日 16:25に書いた記事です。

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