Top会員投稿地盤改良工法の開発について

地盤改良工法の開発について

idea_write_no42jpg.jpg
中島 徹
(株)コンパース相談役
(株)エルフ代表取締役

 ラップルコンクリートに代わるブロック状の 地盤改良(エルマッド工法)について、2009年3月(財)日本建築センターより建築技術審査 証明BCJ−147を取得致しました。
苦労話などを報告する機会を与えて頂いたことに感謝し筆を取ります。
最初に建築設計を本業としていた私が何ゆえ基礎工事(地盤改良)の施工をすることになったのか、その経緯を少し。

  昔、重量のある製品を造る機械製造工場の床版を設計していたときのこと、良好な砂礫(N値50以上)の支持地盤がGL−3m付近にありその上は軟弱地盤で単純な土間では設計できず、仕方なく支持杭を打ち地中梁でつなぎ、単純にスラブで設計し簡単に済まそうとしたのです。
しかし20トン超もある製品が移動するため、スラブは厚く梁は大きくなりとても不経済な設計になりました。原因は杭先端の支持地盤が良好で、杭の支持力が高すぎるからで、わずか3m下の支持地盤に力を流すため、地中梁を介して回り道させたのが原因です。「力は回り道が嫌い」なのです。そこで当時出始めの柱状地盤改良杭を3m前後のグリッドで配置し、地中梁をやめFEMを使いスラブのみで設計すると、すっきりした図面になり満足していたら、なんと柱状改良杭の値段が高く、PC杭と地中梁をあわせた金額をはるかに上回ってしまい、驚いたのと同時にどう考えても納得できない。

 泥にセメントミルクを混ぜて柱状にしたものがそんなに高いのはおかしと思い、知り合いの杭施工業者に相談したら案の定非常に安くでき、それに気を良くして柱状改良を設計に取り入れるようになったのですが、現場を見ているとそんなに甘い物ではないことを思い知らされることがたびたびです。

 そのひとつが地中障害物です。大きなコンクリートガラや転石、ひどいときは産廃が出たりです。それらは当然地表面から見えない、キリが途中で入らなくなるので、バックホーを用いて大きな穴を掘りそれら障害物を取り除き、選別した土だけを埋め戻し、再度杭芯を出し直して最初からやり直しです。

 そんな無駄な作業を見ているうちに、せっかくバックホーで穴を掘ったのだからその穴を埋め戻す時にセメントと水を加えてかき混ぜたらそれでいいではないか、と大胆にも考え始めたのがそもそものきっかけです。それからが苦労の始まりでした。

 攪拌混練するためのバケットを試作したり、市販品をさがしたり悪戦苦闘を繰り返し、おまけに固化対象の土はほぼ無限のバリエーションを持っているうえ、多量の湧水が出たり、産廃、油分を含んだ土など、なんでもありです。ひどい時には木造家屋一軒分とか自動車を解体したあとそっくり埋めてある土地も経験しました。

 しかし支持地盤を目視確認でき、また攪拌混練状態も目視しながら計器に頼らず改良体を造成できることに満足していましたが、ある時期から人の勘や目視よりも数値管理し、記録が残る工法が求められるようになってきました。抵抗しても時代の流れには逆らえません。

 ①バックホーに取り付けたバケットミキサーの先端がドロドロの改良体の中を移動し、その軌跡をオペレーターがモニターで把握し記録を残すことが要求され、さらに何をもって改良終了とするのかとの難題を突きつけられノックアウトです。

 そんな装置はどこの建機メーカーにもありません、しかし耐震偽装事件後はこれを解決しない限り、日本建築センターは審査証明を発行してくれません。

 バックホーにはブーム、アーム、バケットとある長さを持った可動部分があり、ブームとアームの角度はその回転中心に電気的に角度を読み取るエンコーダーが付いているものもあったが、バケットの回転中心は条件が過酷で繊細な弱電部品は取り付け不可能です。

 もし取り付けができたとしても回転角と可動部分の長さから演算するのではバックホー本体が作業中少し傾くとバケット先端では大きく誤差が生じます。

 必死に考えていると、ある時ふっと思いついたのです。

 可動部分それぞれに3個の傾斜計を付け地軸との絶対角を読み取り腕の長さからバケット先端位置を演算すればよいと。この方法の長所はバックホー本体が少々傾いても精度よくバケットの先端位置を特定でき軌跡も描くことが可能だ、と言うことです。

 更に傾斜計だから可動部分の回転中心でなく、どの位置に取り付けてあってもいいし、おまけに密閉した箱に入れておけるのでバケットと一緒にドロドロの改良体の中を移動させても十分耐えられる。これで何とか解決できました。

 ②については、改良体の中にセメント系固化材が均等に分散すると電気比抵抗値がほぼ10Ω〜20Ωを示すようになるとの知見を得て、センサーを自作しバケット先端に取り付け、移動軌跡上の抵抗値を色分けし、リアルタイムでモニター上に表示し改良終了の判断基準とすることにより何とか問題を解決できました。

 あとは攪拌羽根の回転数は近接スイッチで、回転トルクは油圧を読み取るなど既存の技術の組み合わせで十分でした。

 やっと建築センターに見てもらえる状態になったのですが、試験の為の供試体の採取を手でモールド管に詰めていたのも、作為性がありだめで、深度方向上中下三箇所を無作為に採取しなさいとのこと、これにも四苦八苦しながらやっと空気駆動のサンプラーを開発し、ぎりぎり審査にこぎつけました。

 宇都宮の関東ローム層での立会い試験も無事終了しセンター評定を取得できましたが一難去って又一難、解決しなければならない問題が立ちはだかります。

 センター物件はフレコン(トンパック)を使えずセメントミルクを注入し混練することが条件なのですが、現場にセメントサイロとミルクプラントを設置しなければならず、既存のシステムを使用すると大きなコスト負担となり小規模の工事にはとても適用できません。それではセンター評定を取得した意味が無くなります。

 どうしても超軽量で簡単に設置、撤去が可能なセメントミルクプラントが必須です。この開発にはほぼ10年かかりました。作っては壊しの連続で諦めかけた時期もあったのですが、技術革新しか我々零細企業が生き残る道は無いと念じて、やっと最近ほぼ満足のいくシステムが完成したところです。今後の課題は攪拌混練時に添加水量をできるだけ絞り固練りを目指すこと。またこの改良体を使った鉄骨柱の掘っ立て工法の開発、設計上は改良体と原地盤の複合した基礎をFEMで解析し、合理的な設計を目指すことも考えております。

 やりたい事はたくさん有りますが一歩ずつでも進んで行きたいと思います。



|
  • TOP
  • 県民の皆様へ
  • 建築士とは
  • 建築士事務所とは
  • 建築士事務所協会会員
  • 協会会報 さぬき
  • 会員作品集
  • 良い家を建てるには
  • 設計から建築まで
  • 苦情解決業務
  • 会員の皆様へ
  • 行事・講習会
  • 連絡事項
  • 委員会
  • 協会概要
  • 協会概要
  • 入会案内
  • 賛助会
  • 賛助会
  • リンク集
  • 香川県建築設計協同組合

この記事について

このページは、sekkei-kagawaが2011年8月31日 16:26に書いた記事です。

ひとつ前の記事は「-(会員シリーズ)過ぎし日を語る - 武田美治」です。

次の記事は「「あんもち通信」と その「こぼれ話」」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。