Top会員投稿寄稿: 2013年6月

寄稿: 2013年6月アーカイブ

香川大学教育学部附属坂出小学校 創立100周年記念事業 −スクールデコレーション−

神余 智夫
神余 智夫
(株)清和設計事務所

 附属坂出小学校は、平成24年度に創立100周年を迎えました。その記念事業の航空写真撮影時に、PTAで校舎にリボンをかけるスクールデコレーションという事業を実施しました。


 大きな記念の年に、何か子供たちへのインパクトがあり、かつ、メッセージ性のある事業を模索していました。そして、リボン的なものを装飾してはどうかというアイデアからスタートしました。

img-01-003.jpg 設置から4カ月ほど前、どのようなデコレーションをするのか、保護者によるワークショップを実施しました。多くの保護者から盛りだくさんの案が出ましたが、最終的に大きなリボンに集中しようということになりました。

 そして、リーダーを務めた保護者の方がリボンの試作の模型を作り、全体の設計をどのようにするかを考えました。8mものリボンは、布地自体を補強材で強度を高めたり、かなりの部分を室内作業で進めるために、屋上に事前に設置しておく土台と、布地を取り付けている土台を分割して設計することにしました。また、布地の土台は、教室の扉から出すことのできる大きさで19パーツに分割して設計を行いました。

img-01-005.jpg 部分的な試作を積み重ね、全体の計画が見えてきたところで、本格的な製作に取り掛かりました。保護者に協力を呼び掛けたところ、平日にもかかわらず多い時には80人以上もの方が集まり楽しく作業を行いました。150mもの布地に補強材のアイロン掛けをしたり、家庭科室でミシン作業をしたりと、子供たちも保護者が作業する光景を不思議そうに見ていました。

 また、土日を利用して、お父さん方にも協力してもらい、土台の大工仕事や、曲線用の番線の編み込みを行いました。
 パーツが完成したところで、室内での仮組みを行いました。広めの教室を借りていたのですが、あまりもの大きさに全体像が見えづらいほどでした。特に結び目のところの表現はとても難しい作業になりました。

img-01-007.jpg また、リボン以外にも窓周りや屋上に風船で飾ったり、100周年記念ロゴを大きく飾ることも計画しました。またまた保護者が80人近く集まり作業を行いました。学校のいたるところで保護者が作業をしている状況でした。

 設置本番の2日前の日曜日を利用し、1段目の土台製作と、2段目の土台パーツの運搬、仮組みを行いました。屋上の防水の養生から、足場の設置、材料の調達運搬など、工事現場並みの大作業となりました。

 撮影当日は、早朝から組み立て作業、リボンの最終製作と風船などの設置を行いました。平日にもかかわらず120名の保護者が集結し、多くの持ち場に分かれて作業を行いました。そして、11時30分の撮影のぎりぎりまで、リボンの微妙なふくらみの調整や、帯の垂れる角度の微調整の作業を進め、ついに完成することができました。

 空撮のセスナやNHKの取材ヘリが小学校の上空を旋回する中、撮影の瞬間を子供たち、先生方、保護者が固唾を飲んで待っています。しばらくたって教頭先生から撮影終了の号令がかかり、拍手と歓声が沸き起こりました。そして、保護者の方々も涙を流しながら成功を喜びました。

 延べ1000人もの保護者の労力によるプロジェクトでした。5分間のNHKの特集ニュース放映の直後、私が子供の頃の複数の恩師から電話があり、「感極まってニュースを見たよ、ありがとう」と言っていただきました。

 これまで小学校を支えてくれた方々への" 感謝" と、今を支える人たちの" 絆" をメッセージすることができ、子供たちの心に深く刻まれた事業になりました。  多くの人たちの様々な知恵や経験や情熱と、建築士のちょっとしたサポートが実を結んだことで、大きな感動を実現することができた貴重な成功事例となったと思います。




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遷宮...古いにしえの寺社への想いをとおして... 古代瓦屋がおくとイスラームガラス

入江 英樹
入江 英樹
入江建築設計事務所

 先日、瑜伽山蓮台寺(倉敷)で妻の還暦の厄払いの機会があり、思いがけず大般若経の天読で御祓いを受ける幸運に恵まれた。
 低頭しながら、随分前の某曹洞宗寺院の落慶法要での、両側にずらりと並んだ僧侶達による大般若経転読の迫力を思い出していた。
 その先日も、某真宗寺院の大改修落慶円成式典に出席の機会もあり、何かと宗教建築との関わりが続いている。
 法隆寺では竹島卓一先生に、師でもある内井昭蔵先生の身延山久遠寺宝蔵(日蓮宗)に魅せられて、宗教建築への思いが募ってきたことと、古くは永平寺(曹洞宗)の管主との拝謁時の様々な印象深い話題も併せて思い返された。
 その蓮台寺で先ほど、精進料理を味わい、呈茶でくつろぎながら隣接する由加神社の厄除け階段を改めて見下ろしながら想いに耽っていた。
 この正月明けに由加神社の厄払い階段を慌ただしく参拝したこともあるが、私の設計人生について色々振り返って考えることが多くなっている。
 東京西麻布でのワーク、高松工芸高校建築科教諭を経て設計の実務に入って早や40年を迎えている.........やはりそんな想いに耽ってしまう。
 今年の初詣は、善通寺から最上稲荷参拝だったが、実は昨年から寺社巡り等が過ぎて左ひざを少し痛めたようで、杖を時々使っている。情けないが階段がきつい為もあり、折り畳み式の杖を持ち歩かざるを得なくなっている。
 瑜伽大権現と、1月の金毘羅大権現参拝時の階段も杖に大いに助けられた。
 先月、伊勢神宮・第62回式年遷宮の工事中の下見がてら、妻と参拝することができた。内宮前の大味な石段と、五十鈴川辺はいいものである。もう20年経ったのかと、前の式年遷宮時に御祓いを受けたことを懐かしく思い返していた。
 あえて同じ物を造り替えるという形式により日本古来の伝統文化や、その精神を次世代へ継承していくという思想が反映された文化の粋さには惹かれる。
 この秋には改めてしまかぜ号で、外宮ホテル~から内宮へ参拝したいものである。又、出雲大社の60年毎というまさに一生に一度の大遷宮に想いをはせつつ、本殿遷座祭も楽しみにしている。そしてもう一つの唯一神明造の宗像大社(裏伊勢・玄界灘)にもと気持ちだけは向いている。
 これ迄、設計業務に伴い、文化財発掘調査に遭遇したことが何回かある。
 10年ほど前にも、香川県弁護士会館着工時に同様のことがあり、高松城址(松平大膳家中屋敷跡)の調査報告書が高松市教育委員会と香川県弁護士会で纏められている。
 特に、出土瓦拓本には以前から関心もあり、善通寺等においても文化財発掘調査現場の説明会等に赴いたこともある。そして、その拓影のもつ不思議な表情に惹かれていた。
 近くに「宝幢寺」の塔心礎と礎石が眠る宝幢寺池があり、古瓦が出土しており、丸亀市指定文化財として郡家小学校等にも展示されている。
 古墳から寺院へ...丸亀市内の主要な古代寺院としては、田村廃寺、法勲寺跡 県内では、妙音寺(三豊市)、開法寺跡(坂出市)、中山廃寺(高松市)等があげられる。...「讃岐国分寺の考古学的研究(渡部明夫著)」より
 藤原宮と関わる三野町・宗吉瓦窯から、府中・山内瓦窯跡(ロストル窯)等の変遷を知るにつけ、瓦屋(がおく)から見えてくる古代寺院の持つ不思議な魅力を感じています。寺院としては版築基壇に礎石建ちと瓦葺き、神社としては掘立柱と檜皮葺きになり、瓦葺といえば 寺院のことを指すようだが、軒丸瓦の文様(蓮弁、蓮子、中房、子葉、間弁、珠文帯、鋸歯文帯等)、唐草文軒平瓦の文様(主葉、三葉文、三葉状支葉、萼、蕨手葉、珠文、線鋸歯文等)の変遷は古代の職人の美学も映し出しているようで興味深い。
 さらに、イスラーム風唐草文・アラベスク文にも強く惹かれる。
 ヴェネチアンガラス、ボヘミアガラス、さらにはアールヌーヴォーへの影響の原点ともいえるイスラームガラス。「イスラームの華」と賞賛されたイスラームガラスの最高峰「エナメル彩ガラス」......
 祈りの空間としてのモスク、そしてその「モスクランプ」等に職人の念い入れが伝わってくるようだ。
 随分前になるが、ある寺院本堂設計業務に伴い飛鳥へ瓦の製品検査に赴いたことがある。工房での文化財の改修の多さにも関心が向くが、特に東大寺の瓦改修の工程には少なからず圧倒された記憶がある。
 創りあげた鬼瓦に、清めた真新しい銅釘での署名、そして御祓い、瓦職人の作品と施主・工事関係者への思い入れを垣間見た思い出もある。
 四国新聞連載の冊子「古いにしえからのメッセージ(県埋蔵文化財センター)」は、讃岐国府跡に、又南海道に関するものもあり、讃岐国分寺、国分尼寺へも関心が及んでいます。
 讃岐国分寺は南海道(古道)からの景観を重視して造営されたようで、唐渡峠を越えると蓮光寺山の山頂の真下に位置し、道路の正面に見えるように配された。峠道を下ると国分尼寺が現れ、両寺が同じ高さに遠望できる。
 讃岐一ノ宮・田村神社、讃岐二ノ宮・大水上神社(高瀬)、又神宮寺(神社を守るお寺)関連についても、興味が出てきています。
 自宅でも、西明寺(西安)の石茶砥の石拓は茶掛に表装、伽揶山海印寺(韓国華厳宗)で求めた最古の木版拓の「般若心経」は古の職人の刀蹟も楽しんでいます。
 昨年の香川県重要文化財耐震予備診断業務での丸亀城・枡形門の高麗門、櫓門、又その八双金物、乳金物等の門金物の存在感、狭間(ザマ)、矢狭間(ヤザマ)のある風景はやはりカメラを向けてしまう程の歴史の重みを感じさせる。
 一昨年の姫路城大天守閣保存修理の見学とも併せ、古いにしえの大工・職人達の息吹が感じられる。
 「郷土の未来文化遺産」を考えるセミナー(中津万象園)では、「大名庭園」「御成り」と「御成り道」についての話題もあり、丸亀城から中津万象園までの御成り街道のルートに思いを馳せつつ、丸亀城の北面は以前、海波に洗われていた為、古道は南廻りになっていたと聞いたことを思い出していた。
 又、園内の茶室(観潮楼を例として...)は煎茶席だったとの話。黄檗宗からの流れによる、数奇屋とは別の感性による造型...という話から塩飽大工に話が及び、興味深くスライドを拝見した。「塩飽海賊史(真木信夫著)」と昨年編の年表も併せて塩飽大工の本格的な寺社への変遷も興味深い。
 茶会にもある程度定期的に参加しているが、時々は煎茶の茶会席での粋な煎法もいいものである。抹茶席とは設えも違い、「氷裂」文様等も時代の美意識を感じさせモダンでもある。
 又、この春からのアートの祭典・瀬戸内芸術祭をどう攻めるか...どう島へ上がるか...という思案も楽しんでいる......前回の反省も交えながら...。 五色台連山、五岳山、大麻山(象頭山)等の山並みに囲まれて、そして瀬戸内に面した中讃地域で育った私にとって瀬戸の海と島は、原風景の深い背景も併せ持っている。その中にあって神の島と呼ばれる厳島・その厳島神社......瀬戸内海に屹立する楠の大鳥居は、昨年参拝できた太平洋に鎮座する大洗磯前神社(茨城)の海中鳥居とも重なり、ペルシャ・ゾロアスター教の関連も囁かれる不思議な水の神殿をこの瀬戸内海に創り出している。背景の山に朱色の社殿が映え、回廊の表情がひときわ印象的に感じている。
 今年の花見は厳島神社になりそうな気がする。そして、何かと忙しい一年になりそうだ。


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