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-(会員シリーズ)過ぎし日を語る - 尾崎真悟

建築文化から創造都市へ
尾崎真悟
(一社)香川県建築士事務所協会 賛助会
尾崎真悟
((株)香川県建築住宅センター)

 貴重な誌面をいただき、最近、思っていることを書いてみましたが、与太話になったことをお許しください。

 いろいろな場面で、建築文化とか建築の文化性といった表現を目にすることが多い。さらに、この表現を使うのは建築分野の人であることが多い。そして、建築文化って何でしょう?、と尋ねてもなかなか的確な説得力のある答えが返ってこないような気がしている。時々、文化財に詳しい方々から伝統的な手法、景観、歴史性の価値を懇々と教示いただくこともあるが、現代建築を設計、施工する実務者の立場からは少し違う気がする。
 文化とは何なのか、と思い調べてみた。国の文化芸術振興基本方針に、
 文化は、最も広くとらえると、人間が自然とのかかわりや風土の中で生まれ、育ち、身に付けていく立ち居振る舞いや、衣食住をはじめとする暮らし、生活様式、価値観など、およそ人間と人間の生活にかかわることのすべてのことを意味する。(途中、略)この文化の中核を成すのは、芸術、メディア芸術、伝統芸能、芸能、生活文化、国民娯楽、出版物、文化財などの文化芸術であると記されている。
 文化という大きなくくりがあり、その中のこれこれが主要な構成分野である、というような内容だと思うが、建築文化という言葉が出てこないし、建築をこれら文化芸術の活動の場、施設として捉えており、文化芸術の一部とは考えていないようである。敢て文化芸術の中に建築の居場所を探すとそれは文化財の建造物ということになり、先ほどの文化財の方の考え方は国の方針に沿っており全く正しいのである。
 しかし、現代建築は芸術性の高い文化である、と思いたい私にとっては戸惑ってしまう。
 いろいろ考えるに、日本では、人の思考、能力、専門分野や社会での活動を、理科系と文科系、科学・技術と文化・歴史など、いわゆるハードとソフトに分ける傾向がある。現代建築は、理科系で科学・技術のハード分野であり、ソフト分野の文化芸術ではないと見られているような気がする。
 一方、建築に関わる者は、おそらくこういう分野の境界を感じていないのではないか。
 これが、「建築の文化性」の説明もどちらの側の人間かによって、互いによくわからない、それは違うだろう的な状況になっている原因ではないだろうか。
 建築は、最初の定義に照らし、人類発祥から自然と関わり、生活の一部として存在してきたものだから、大きなくくりの文化であることは間違いないだろう。次に、現代建築は、意欲的な創造活動により生み出されるものであることから芸術と同じ位置付けであり、文化の中核をなす文化芸術でもある、と思う。

img-01-002.jpg 以前に、小豆島でアーティストと関わる仕事をしたことがある。彼らは、芸術家として自負があるが、建築に対しては敬意を表してくれる。その中の一人、米国人のJ氏が、「建築とアートは非常に似ている。違いは、アートは根幹が哲学であり、建築は根幹が数学である。」と語った。彼の作品は、建築の内外装のような作風である。建築の人も一度は彼の作品のようなことをやった経験があるのではないか。アートの世界もキャンバスに絵を描くことから、いろいろな空間の一部として表現する立体作品が主流になっている。建築への接近であるが、防災上や安全上のことはやはり建築の専門性が必要であり、コラボをしたいとも。彼の話から、建築家は微分積分ができる芸術家である、ということになるが、これは、建築の持っている芸術性を証明しているようにも思える。

 「で、どうしたいの?」というところで、次の段階として、「創造都市」である。

img-01-003.jpg 創造都市とは都市を創造するという意味ではなく、創造的な都市(クリエイティブ・シティ)という意味らしい。海外からの概念のようだが、日本では、建築分野での都市計画手法ではなく、芸術分野のアウトリーチのように捉えられている。
 また、「地域の活性化」が各地で叫ばれている。これもいろいろな形態があるが、アーティストを呼んできて一緒に創作活動をするというもの、著名な建築家の作品や伝統的建造物、伝統芸能などを核にして活性化を図るものなど創造都市を意識しているようにも思える。

img-01-004.jpg 都市の個性、形態として創造性を言うなら、本来は建築の手法であり、建築の得意分野のはずだが、なかなか現代建築の影響力が話題にならない。先ほどからのアートかサイエンスかということ以外に、建築は、莫大な工事費がかかり、建築家は実務上、コンサルタントか請負者の立場にあり、建築主(事業主)は別にいることが大きいと思える。
 そんな中で、個人的に注目しているのが、建築の意欲的な創作活動によるクリエイティブな匂いのする都市空間である。またまた抽象的で、分かりにくい表現を使ってしまうが、何らかのプロジェクトとして進められたと思われる現代建築の創造性を活用した、いわば建築色の強い創造都市がある。

img-01-005.jpg 横浜、神戸、尾道の街並みに実際に接してみた。都市再生というのかもしれないが、デザインされた都市の形がある。建築とアートのコラボもある。クリエイティブな匂いがする、何か落着く、居心地の良い空間を感じる。そこは、自然に人が、それも若者が集り、そしてにぎわっている。

img-01-006.jpg 横浜、神戸は都会だから一工夫するだけでよいのかもしれないが、尾道には驚いた。坂の多い、斜面からすぐ海といった街で、倉庫街のリフォームやウッドデッキの遊歩道だけではこれだけのにぎわいは作れないはずである。
 テーマは歴史文化の活用だそうだが、建築の創造性(文化芸術性)の匂いがした。もっと調べてみたい都市である。
 以上、ろくに調べもせずに感覚だけの事例紹介になり、それも港が好きなだけにウォーターフロントばかりになり、今後の課題が多い結果になった。

 一工夫ある設計、周辺環境や地域の特性へ配慮した設計、これらの積重ねが創造性あふれる都市につながるように思います。文化芸術としての建築、創造都市、こういった役割を担うのも建築士事務所協会の皆様ではないでしょうか、是非、頑張ってください。


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